現実世界がサイバー空間に与える影響――ウクライナ侵攻とハクティビストの動き

 こんにちは、Armoris 広報の酒井です。エストニアのサイバーセキュリティの権威で、Armorisの協力メンバーでもあるRain Ottis(レイン・オッティス)が、2023年12月、企業向けに講演。現実世界がサイバー空間に与える影響について、2023年11月11日時点の情報を語りました。今回は、ウクライナ侵攻におけるハクティビストの動きについて、Rainが語ったエッセンスを紹介します。(以下は、Rainによる講演内容の要約です)

レイン・オッティス(Rain Ottis)――タリン工科大学サイバーオペレーション学科教授で、以前は、NATO Cooperative Cyber Defence Centre of Excellenceとエストニア国防軍に勤務していました。

政府の指示で動く”ハクティビスト組織”が存在する理由

 前回は、ウクライナ侵攻に関連する2023年11月時点の最新のサイバー空間の動きについて解説しました。ウクライナ侵攻に関して、もう一つ注目すべきは、ハクティビストの動きです。というのも、現在観測されている複数の”ハクティビスト組織”は、本来の言葉どおり、政治的なイデオロギーを持った集団かどうか、必ずしも明確ではないからです。

 中には、ロシア政府から指示を受けている、もしくは、政府の一部である可能性が指摘されている組織も存在しています。また、ウクライナのIT軍(注:ウクライナ側の立場でサイバー攻撃を行っているとされている組織)は主に志願兵で構成されていますが、私の知る限り、ウクライナの指揮系統にある程度統合されており、ウクライナ政府から指示や支援を受けているようです。そのため、ハクティビストという言葉が引用符で囲まれているのです。

 無所属のハクティビストの多くは、やがて飽きて他のプロジェクトに移る傾向があります。そのため、政府の支援を受けた”ハクティビスト組織”が必要とされているのかもしれません。

ハクティビストがもたらす軍事的効果は?

 ”ハクティビスト組織”の攻撃のほとんどは、DDoS攻撃への参加やさまざまな種類の改ざんなど、比較的単純なものです。そして、何らかのデータにアクセスできるようになると、相手を困らせるためにそれらを公開し、情報漏えいさせようとします。しかし、戦闘作戦への直接的な影響は、あるとしてもわずかなようです。したがって、こうした活動のほとんどは、情報戦の一部と見なされるべきでしょう。

 ここ数か月の間に、これらの”ハクティビスト組織”が「何らかのルールに従って行動しようとしている」という報道がいくつかありました。これが実際に起こるかどうかを観察するのは興味深いでしょう。例えば、赤十字は、「ハクティビズムにおいて従うべきいくつかのルールを提案した」と報じられており、これには「病院を攻撃すべきではない」といった内容も含まれています。一部の組織は、「ルールを念頭に置くよう努める」と述べているとされていますが、遵守されるとは言い切れないでしょう。

 さて、日本企業が知るべきは、ウクライナへの支援を約束した、あるいは支援を提供した一部の国もサイバー攻撃の被害に遭っているということです。

 全体として、ロシア・ウクライナ戦争とその中のサイバー紛争に関する今回の最新情報を要約すると、(2023年11月時点においては)サイバー攻撃は多くの専門家が予測していたような形では実現していないということです。つまり、軍事的な効果はほとんどないと見ていいでしょう。したがって、この戦争におけるサイバー攻撃は主に「情報操作」と「(報道されることで)注目を集めたい」というレンズを通して見るべきだと私は思います。ただし、決して安全だと高をくくってはいけません。

 次回は、ガザで展開中のサイバー攻撃についてです。