バズワードに踊らされないために 流行技術と向き合うための心得

 Armorisでは、サイバーセキュリティ人材育成の他にも、さまざまな講座やワークショップを展開しています。今回は、本多暁が講師を担当する「DOJO Lite 流行技術概要解説」を紹介します。

 この講座は、サイバーセキュリティに限らずIT全般について、ほやほやの最新情報を継続的にインプットしたい方にオススメです。その名の通り、流行技術を扱っているので、内容は毎度アップデートされます。生成AIなんてまさにそうですが、昨日までの常識が、明日にはもう古くなっていたりします。本多講師も開催2日前まで資料をアップデートして臨むものの、それでもフォローしきれない新情報があって口頭で補っています。本記事では、個別のテーマに限らず流行技術との向き合い方の本質について、本多講師のトークをまとめてお伝えします。

Armoris DOJO Operation Manager 本多暁 SI界から来た何でも屋さん

DOJO Lite 流行技術概要解説」の概要と目的

 世の中には、いろんな流行り廃りがあります。2023年は、AIの話題が随分増えた印象です。この講座では、2023年に話題になった技術がどんなものだったのか、そして、それが2022年以前にはどのように予測されたり扱われたりしてきたのか振り返っていきます。流行以前の世の中の期待、技術的に成熟していく過程を時系列で理解することで、話題の技術の正体、そして、自分で調査する際の観点を養うことができるでしょう。

流行技術との付き合い方

1.背景技術について理解する

 完全に新しい概念は、そうそう出てきません。新しく見える技術も、たいてい裏でコンピュータが何らかの処理をしています。既存の技術の組み合わせや応用もあります。いろんな人が研究や検証を繰り返し、その中の一部が商業的に成功して表に出てくるわけですから、「これはもともと何だったんだっけ?」と考えてみると面白いです。

 例えば、ビットコイン。これはハッシュ関数と署名とP2Pネットワークの組み合わせです。個々の技術はかなり古いものです。

 流行るタイミングによって背景技術が変わるものもあります。たとえば、AIという概念は、1950年代頃からあり、これまで大きく分けて3回のAIブームがありました。しかし、ずっと同じものをAIと言っていたわけではありません。「大昔にAIが流行ったけど大したことなかったし、今回もどうせそんな感じでしょ」では、読み間違えることになります。

2.なぜ流行っているのか考察する

 なぜ流行っているのか考察するのも面白いです。真に技術的に優れている・画期的であるから流行っているというケースは、そんなに多くないかもしれません。既存サービスとの差別化がうまくいったから、メディアでよく取り上げられるからという一見すると技術的なところとは関係のない理由も少なくありません。いろんな人の思惑があって表に出てくることもあります。

3.定義に固執しない

 定義に固執しないことも大事です。「DX」なんかまさにそうかもしれませんが、商業化された技術やサービスには利害関係者がいます。利害関係者がポジショントークを展開するのは当たり前のことです。誰が、どんな目的でその技術に関わっているのか、邪推にならない程度に考えてみましょう。

 物事を前に進めるために大切なのは、私とあなたの定義を一致させることではなく、今この技術について、どういう背景・考え方で話しているのか見極めることです。一方で、技術的に正しい説明は、それはそれで大事。揉めそうになったら、「まぁ、諸説ありますよね」と、争いを避けながら話を進めるほうが得策かなと思います。

4.適度に近づく

 新しいものに対して、熱狂し過ぎてもいけないし、冷淡であり過ぎてもいけません。大人になると冷淡になりやすくなります。新しいものが怪しく見えることも珍しくありません。でも、仮に自分がそれをあまり好きではないとか、胡散臭いなと思ったとしても、自分なりに分析・考察できる程度にはアンテナを張っておかないと、情報収集すらできなくなってしまいます。

 それに、世間的に使われるようになれば、何らかの形で自分にも影響が及んできます。たとえば、ChatGPTが出始めた頃は、「何だか気持ち悪い」「リスクがありそうだから使わない」と言っていた人もいました。しかし、周りが使い始めたら、生成AIで作られたデータは勝手に外から飛んでくるようになりました。

 新しい技術が何に使えるのか、自分や周囲にどういった影響があるのか、継続的に考察しましょう。疑ってかかることは重要ですが、慎重になることと感情的な非難は別物です。

5.適切に距離を取る

 そうは言っても、適切に距離を取りましょう。先ほど利害関係者と言いました。認知バイアスといって、当事者はどうしても思い込みに陥りやすいです。自分にとって都合の悪い情報を軽視する正常性バイアスや、生存者バイアスなんかもあります。成功の裏側には、無数の失敗や敗北者たちがいることを想像できないと、リスク回避ができなくなってしまうかもしれません。だからこそ、これまでお話ししてきた1~4までが重要になってくるのです。

6.特定のポジションと争わない

 誰にでも「ポジション」があります。私だって、こんな講座やっていて、なるべく客観的な情報を伝えたいところなのですが、真に客観的になることは無理です。私はもともとシステム開発に従事していました。だからどうしても、プログラム的にこれは適切なのか、という部分に目を向けたくなってしまいます。

 ですから、「私は客観的に話しています」という人の話でも一歩引いてみることが大切だと思っています。そして、自分の背景を具体的に表明した方が良いです。私には私のポジションがある。あなたにはあなたのポジションがある。そのポジション同士は混ざり合わないことを前提に、違いを理解することが大事です。

7.「銀の弾丸はない」と心得る

 最後に、「銀の弾丸はない」と心得る。これは、ソフトウェア技術者 フレデリックブルックスの1986年の論文『銀の弾丸などない』に書かれていたフレーズです。銀の弾丸とは、ヨーロッパの伝承神話で、モンスター、特に狼人間を一撃で撃ち倒す強力な武器の例えです。「そういった便利なものは、ソフトウェアエンジニアリングの世界には存在しませんよ」ということを言っています。

 でも、悲観主義ではありません。「新機軸をもたらすための継続的な一貫した努力はそれはそれで認めている」という内容になっています。言い換えれば、「There is no royal road, but there is a road.(王道はないけど道はある)」。このフレーズも確かこの論文の中に書かれています。

8.試しに使ってみるのが一番手っ取り早く理解できる

 こんにちのコンピュータの新しい仕組みは、原理を正確に理解しようとすると、高いレベルの数学の知識が求められます。大学以上、少なくとも行列やベクトルの知識がないと本当の意味での理解は難しいかもしれません。でも、それではハードルが高すぎる。この講座では、じっくり聞いたら理解できるようにポイントをまとめています。ただし、「試しに使ってみるのが一番手っ取り早く理解できる」ということは申し上げておきましょう。

――ということで、次回の「DOJO Lite 流行技術解説」は、5月31日。テーマは、「ダークパターン」を予定しています。ダークパターンとは、消費者を騙して不利な契約や意思決定に誘導するUIやサービスデザインの総称です。ダークパターンの類型、ダークパターンの起源、サービスの企画・開発・提供者として気を付けるべき点など、2時間で徹底解説します。ぜひご参加ください!